Image Imagination

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研究紹介

イメージとイマジネーションの心理機能を研究

旅した風景や好きな人の顔を思い浮かべる。部屋の模様替えをあれこれと考える。夢を見る。イメージは日常の様々な場面で経験され、実生活に大きな役割を果たしています。 私の研究室では、こうしたイメージのはたらきや特性について研究を進めています。

イメージとそのはたらき
イメージは現実に知覚する対象がない場合に生ずる疑似知覚的体験です。視覚経験だけでなく、音や香りのイメージ、運動イメージなど、それぞれの感覚に対応したイメージが あります。そしてすべての感覚をともなう「イメージ体験」があります。イメージ体験は実体験のシミュレーション機能をもち、実体験の代替となり得ます。
最近ではイメージを思い浮かべているときの脳活動に関する研究も進んでいて、 イメージ研究の基本テーマ感覚的に鮮明なイメージを経験しているときには、実際に経験しているときと同様の脳内活動が 起こっていることがわかってきました。リンゴを見ることとリンゴを想像すること、握手をすることと握手するのを想像することには同じ脳内部位が関与します。まさに脳レベルでイメージの 「現実シミュレーション機能」が確かめられつつあります。想像するだけでも実際の体験と同じ効果が期待できる。ここが重要なポイントです。

特異なイメージ能力をもつ人たちの研究
きわめて強い知覚的なイメージ能力の現れのひとつが直観像です。直観像を持つ人たちは、映画『マイノリティ・リポート』に出てくる空間投影型のディスプレイのように、 対象や情景を眼前にありありとリアルに思い浮かべることができるようです。これまで継続的に直観像をもつ人たちの研究を続けてきましたが、こうした人たちはただ単にリアルで 知覚的なイメージを体験できるだけでなく、想像や空想の世界に没入しやすく、他者への共感性が高く、優れた芸術的感性をもつ人が多いようです。
直観像所有者が同時に共感覚者(文字や音に色を感じるなど、 NIRS装置を用いたイメージ想起時の脳活動の計測 複数の感覚が同時に起こる)であることも少なくありません。宮澤賢治は典型的な直観像所有者のようですが、 その他、寺田寅彦、黒沢明など、直観像を持っていると考えられる有名人は少なくありません。現在、我々の研究室では、直観像をNIRS装置(光トポグラフィー)や脳波計、 さらにfMRIなどの脳機能画像装置を用いて脳神経レベルからも検討をすすめようとしているところです。直観像はまだ謎の多いミステリアスな現象とされていますが、そのメカニズムの 解明がすすめば、知覚とイメージの脳内メカニズム、幻覚生起のメカニズム、創造的な感覚イメージ能力の開発研究、PTSD時の侵襲的イメージの緩和技法の開発等、 関連研究への応用も期待できると考えています。

夢見の研究
夢は睡眠時のイメージ体験です。心理学ではフロイト、ユング以来おなじみの研究テーマですが、現在では認知科学、脳科学の分野でも夢の脳神経基盤の研究が 急速に進んでいます。そこでは夢を見ているときの脳活動や夢が記憶や感情の処理に果たす役割について次第に明らかになってきました。 私たちの研究室では、夢の認知的・感情的機能、日中の活動と夢見の関係、生活における精神的健康やストレスとの関係、夢が創作活動に果たす役割などをめぐって 調査研究を行っています。どんな夢を見るかはその人の精神的健康や身体の状態の指標にもなるようです。
加齢の影響や日常接する情報メディアの影響も大きいようです。一般に年を取るほど夢見は減退します。我々が他大学と共同して行った10代から80代まで約2000名を 対象とした調査からは、日本で急速に進んだカラーテレビの普及過程のどの時期に幼少期を過ごしたかが色彩夢の経験頻度と密接に関連するという興味深い結果が 得られています。ちなみに今の学生のほとんどが色のついた夢を普通に経験しているのに対して、60歳以上では色彩夢はむしろマイナーな体験になっています。

イメージを活用したストレスや不安の軽減(災害や事故後のPTSD症状の緩和)
感情を制御するのにイメージはきわめて有効なツールです。嫌な気分を変えるために、楽しいことを想像することは日常よく行われています。最近、イギリスの研究グループが、 ネガティブ感情を緩和するには他者視点、ポジティブ感情を高めるには自己視点からイメージするのが有効であることを確認しています。人と言い争う自分の姿をイメージするなら 他者視点から客観的に想起するほうが攻撃的な感情を緩和します。
一方で、テーマパークの楽しい思い出なら、自分自身が目にした視点からイメージするのが、楽しい気分を高めるのに効果的というわけです。またテトリスなど視空間のイメージ操作を 使うゲームが不快なイメージ場面のフラッシュバックを抑制することも実験的に確認されており、事故や災害に遭遇した際に、こうしたゲームがPTSDの予防に役立つことが 期待されています。我々の研究室でも災害ストレスに対処する方法のひとつとして、今後は、こうしたイメージを用いた感情制御や心理臨床技法の研究を行っていく 予定です。